エンタメビジネス日米の違い

RIAA(アメリカのレコード協会)のデータによると、音楽市場ではアメリカが第1位、小売ベースで17.7億ドル(貿易ベースで推定値10-12億ドル)、日本は大きく離されているもの第2位で2.5億ドル、第3位の英国が1.9億ドルとされている。アメリカは音楽市場全体の40%と圧倒的地位を占めているが、日本が今も2位の位置をキープしているのは、CD/DVDなどのパッケージが売れていて、その収益が全体の40-50%を占めていることが大きい。パッケージが今も売り上げの多くを占めていることの理由として(1)ファンエンゲージメント文化、(2)ストリーミングで遅れをとっていることがあげられる。

ファンエンゲージメント文化

日本ではアイドルグループやアーティストのファンコミュニティが形成されることが多く、ファンクラブの活動も活発である。アイドルやアーティストとの握手会やイベントの参加券付き、限定フォトカード、ストーリーブックなどの特典がCD購入についてくることが多い。そのために複数枚購入するファンが多くいる。

ストリーミングの遅れ

パッケージが売れた方が利益率は高いので、ストリーミング市場に参入する必要はない。今も一部のレコード会社やアイドルグループを多く抱える事務所は、フルバージョンのストリーミング配信を制限したり、遅らせたりしている。日本市場で売ることだけを考えるなら、ストリーミングよりパッケージで売った方が良い。それゆえ、日本ではストリーミングの普及が欧米より遅れている。

また、著作権の権利処理に関しても異なっている。日本ではJASRACとNexToneといった少数の団体が著作権管理を集中的に行う「集中管理型」で、放送・配信・ライブなどの使用料もほぼ一元的に処理される。一方、アメリカはASCAP、BMI、SESACなど複数のPRO(Performing Rights Organization+=放送、ラジオ、ライブ、店舗BGM、ストリーミングの公衆送信のロイヤリティを集めて、作曲家・作詞家・出版社に分配)、シンクロナイゼーションライツ(映画・ゲーム・CMなどでの使用権)はパブリッシャーや作家本人との交渉など、契約形態が多様・複雑であるが、逆にビジネス機会も多い。

日本では、グループ・ブランドという箱を運営し、フィジカルとイベントを組み合わせたファンビジネス、アメリカでは個々のアーティストブランドを軸に、SNS・ツアー・コラボレーションなどで世界中に発信してファンを増やしているスタイルが主流、著作権・肖像権・商標権などのIPの切り分けも契約で細かく設計される。日本を拠点とする場合とアメリカを拠点とする場合には、戦略をドラスティックに変える覚悟が必要である。

日本- 芸能契約と音楽ビジネス

日本では俳優・タレントとの出演契約は今でも「台本とスケジュール表だけ」で走ってしまう慣行がまだ残っている。いわゆる芸能プロダクション(事務所)とテレビ局・制作会社との関係性で回っている部分が大きい。米国人クライアントのインディーフィルムの会社社長が、日本人俳優に契約書を出しただけで感謝された、というのもまんざら大袈裟ではない。又事務所とタレント・俳優の専属マネジメント契約は包括的権利許諾+長期間拘束がデフォルトで、芸能人の肖像・実演・パブリシティ権をほぼ丸ごと事務所が管理。これを解除しようとすると「信義則」や「公序良俗」で争いになることが多い。

一方、音楽ビジネスは元々ドイツ語教師をしていたドイツ人のプラーゲが、1930年代に、東京・神田に「プラーゲ機関」という事務所を設立し、当時の放送局やオーケストラ、演奏会、レコード会社などに対して、外国(主に欧米)の楽曲使用料を厳しく請求して大騒ぎになった。これは「プラーゲ旋風」と呼ばれているのだが、プラーゲがきっかけで、日本側は「外国楽曲の権利を守らないと、国際的に孤立する」と危機感を抱き、日本独自の音楽著作権管理団体を作る動きが加速し、契約書関係もその頃から整い始めたらしい。外圧を受けて制度が整うとは、ある意味日本らしい風景ではある。

アメリカ- 詳細項目を契約で事前に決定

    米国、特にカリフォルニア州ではTalent Agencies Actでエージェント業務(契約交渉)とマネジメント業務(キャリア指導・生活管理など)が法的に分離されていて(兼務してはいけない)、エージェントには10%ルール(報酬の10%コミッションが上限)があり、7年ルール(7年超の拘束は無効)も厳格に決められて、アーティスト側を守るものとなっている。日本人アーティストがハリウッドやK-POP経由で米国進出しようとして、この分離ルールにひっかっかって、「マネージャーなのにエージェント行為をしていた」と契約無効を主張されるトラブルが実際に起きている。

    音楽の契約に関しても、メジャー・インディーにかかわらずレコーディング契約やマネジメント契約なしに商業リリース・本格プロモーションを行うことはほぼない。契約書には、期間・テリトリー・独占非独占・アドバンス・ロイヤルティその他を細かく書き込むことが前提。「技術的・商業的に満足できる録音であること」を契約条件にしたり、ツアー収入やグッズ(マーチャンダイジング)収入まで回収可能かどうかなど、収益構造とリスク分担をかなり緻密に設計するのが普通である。

    日本 – 製作委員会方式

    日本では映画製作に関しては映画会社・テレビ局・衛星放送・VOD・パッケージ会社など複数の会社が製作予算を出し合い、委員会を作って細部を決める製作委員会方式が主流。映画の不成功に関してのリスクは各社に分散されるものの、利益も分散するし、契約が複雑で海外展開時に「誰が最終権利者なのか」が、不明瞭になりがちである。

    米国- Studioシステム

    米国ではStudioがリスクを一手に引き受けるのが普通。商業的に映画・ドラマが成功した場合には利益は大きいが、純利益条項による分配の計算が複雑で、ファイナンスに関する訴訟が日常茶飯事である。最近ではNetflixやAmazonがLAのStudioを買収し、映画やドラマを独自で製作することも普通になった。映画やドラマの作り方が、VOD独占配信の場合には、今までとドラスティックに違ってきている、とマット・デイモンが暴露しているという面白い記事もあったが、こういうことも、一社が製作の権利を全て持っているからできることなんだと思う。

    エンタテインメント関係の契約・交渉などでご相談がありましたら、当事務所までお問い合わせください。

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