日本人アーティスト・クリエーターがアメリカで活動する前に知っておくべき契約の話

日本で活動しているアーティスト・クリエーターがアメリカで活動する場合、「契約書を読んだ」「英語は理解できる」という方でも、アメリカの芸能・エンタメ業界の特有のルールを知っておいた方がいい。ここでは日本人が見落としがちなポイントを書いてみたい。

日本における契約書というものは、同じ日本人の間で「確認事項を確認する」程度のものであることが多く、細部よりも信頼関係が優先される。一方アメリカでは、契約書に書いてあることが全てであり、「言った・言わない」は通用せず、署名した時点でその内容に拘束されることになる。「とりあえずサインして後で調整しよう」という感覚はアメリカでは通じないことをまず頭に入れて契約に臨んでほしい。

アメリカ、特にCaliforniaのエンタテインメント業界には、非常に強力な組合=Unionが存在する。俳優や声優はSAG-AFTRA、脚本家はWGA、ミュージシャンはAFM、撮影・照明などのスタッフはIATSEといった具合に、職種ごとのUnionが存在する。日本と比べものにならないほどUnionの力は強く、加盟プロジェクトで働く場合には、日本人であってもUnionの規約に従う義務が生じる。報酬の最低ライン、労働時間、休憩時間、残業規定まで細かく定められていて、知らずに違反した場合には、制作サイドが重大なペナルティを受けることになる。ある意味、アーティストの権利が守られているのだが、抜け駆けが許されないわけである。

また、重要なのは、後述するアーティストビザの申請においても、Unionからの推薦状・Advisory Opinionが必須条件となっているので、Unionは、アメリカで活動する際の「入口」でもあることだ。

a. 著作権の帰属 : Work for Hire

「Work for Hire(職務著作)」は日本にも存在する概念で、発注者側が制作された成果物について著作権を持つことを契約書に明記することは日本でも一般的である。ただしアメリカでは、雇用関係(Employment Relationship)の場合、契約書に明記しなくても成果物の著作権が自動的に雇用主に帰属する。一方、独立した契約者(Independent Contractor)として制作した場合には、著作権法で定められた特定のカテゴリー(映画・翻訳など)に該当しない限り、契約書に明記しないとWork for Hireは認められない。つまり、自分が「雇用されているのか」「独立した契約者なのか」という関係性の定義によって、著作権の帰属ルールが変わってくるのがアメリカの特徴である。この区別が曖昧な契約書にサインしてしまうと、意図せずに権利を失う可能性がある。

b. 準拠法と裁判管轄

「この契約書はカリフォルニア州法に基づく」「本契約に係る紛争はロサンゼルス郡の裁判所で解決する」といった条項は、日本人にとって非常に不利になる可能性がある。日本から訴訟を提起する、あるいは対応する場合にかかるコストが莫大になるからだ。可能な限り準拠法や栽培管轄の交渉をする、それが無理でも、少なくともそのリスクを理解した上でサインすることが必要である。

c. ロイヤリティと支払い条件

「売上の何パーセント」という定義が契約書によって大きく異なることがある。「Gross (総売上)」なのか「Net(純利益)」なのかで実際の受取額が何十倍も変わることもある。実際にこの定義が曖昧で裁判になっているケースも沢山ある。支払いタイミング、レポーティングの義務なども含めて、細かく確認することが求められる。

アメリカでアーティスト活動をするためには、その活動に適した就労ビザが必要である。エンタテインメント系で取得が望まれるビザは以下の通り。

P Visa (パフォーマンスビザ)

アメリカの興行主がスポンサーになるビザで、日本の興行の在留資格と同様、グループでの公演・ツアーのために渡米するアーティストに適している。申請にはUnionからのConsultation Letter、が必要。

O-1B Visa

いわゆる「Extraordinary Ability (卓越した能力)」を証明するビザで、アーティストビザと言われるもの。こちらは、卓越した能力を証明するための受賞歴、メディアの記事、所属する業界関係者からの推薦状を多数用意する必要があるとともに、UnionからのAdvisory Opinionが必要。ハードルは高いが、個人での活動にも対応可能。

なお、SNSのフォロワーが多いインフルエンサーについては「パフォーマンスとは認められないためP Visaは使えず、O-1Bの卓越した能力の証明も難しい。どのような形でアメリカの活動に関わらせるのか、設計段階からの法的な視点が必要になる。

いずれにしろ、契約内容とビザの種類は密接に関係していて、契約書の段階からビザを見据えた設計が必要になる。契約を先に結んでからビザを考えると、修正がきかないためにビザが取得できない可能性があるので要注意である。

英語の契約書が読めてもアメリカの法律・業界慣習などの知識がなければ重大なリスクを見落とす可能性がある。アメリカでの活動を本格的に考えている方は、契約書にサインする前に、日米両方の法律と業界慣習を知る当職までご相談を。

ご相談はCentury City オフィスにて対面、またはオンラインで承ります。お気軽にお問い合わせください。

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